整骨院を開業して初めての確定申告を迎える方や、毎年の手続きに不安を抱えている方にとって、税務処理は避けて通れない大切な業務です。
レセプト収入や自費施術、経費処理の区分など、整骨院特有の事情が絡むことで、一般的な確定申告よりも複雑になりがちです。
この記事では、整骨院を運営する上で知っておくべき確定申告の基礎知識から、具体的な書類準備や節税対策、税理士・会計ソフトの活用法まで、実務に即した形で徹底的に解説します。
経営者として申告ミスや税務調査のリスクを避けるためにも、正しい知識を身につけておきましょう。
このページでわかること
- 整骨院の確定申告で必要な書類と提出方法
- レセプト収入・自費収入の記帳方法と注意点
- 経費として認められる項目と按分処理のコツ
- 青色申告による節税メリットと活用法
- 税理士やクラウド会計ソフトの選び方
整骨院の確定申告の基本

確定申告は、自分の整骨院が生み出した「所得を正しく計算し、税務署に報告する」ための手続きです。特に整骨院では、保険診療収入(レセプト収入)と自費施術収入の両方を適切に区分し、記帳・申告する必要があります。以下の内容をしっかり理解することで、適正かつ安心して申告できるようになります。
白色申告と青色申告の違いとは?
確定申告には、簡便だが特典が少ない白色申告と、複雑だが最大65万円の控除を受けられる青色申告の2種類があります。
項目 | 白色申告 | 青色申告 |
---|---|---|
記帳義務 | 簡易記帳 | 複式簿記での記帳 |
控除額 | なし | 最大65万円(事業規模による) |
赤字の繰越 | 不可 | 最大3年間 |
事前申請 | 不要 | 開業後2か月以内に申請書が必要 |
整骨院を経営する場合は、青色申告が圧倒的に有利です。65万円の控除だけでなく、赤字繰越も可能になるため、開業初期の経営安定に役立ちます。
所得の計上とレセプト収入の扱い
整骨院特有の悩みどころは「レセプト収入」の計上タイミングです。レセプト報酬は「支払基金」からの入金があった月に収入計上する「現金主義」が基本です。
- 〇月に施術しても、支払基金から◎月に振込があれば◎月の収入として計上
- 自費収入は施術日に現金やキャッシュレス支払いを受けたタイミングで計上
- 日別・月別収入表を作成し、「いつ」「どの収入か」を明確に区分
この処理を正確に行うことによって、収入のズレを防ぎ、申告時の混乱リスクを軽減できます。
申告までに準備すべき書類一覧
整骨院の確定申告には、提出漏れがないように事前に必要な書類を揃えておくことが重要です。
- 売上帳・レセプト収入明細
- 自費施術の領収書・入金記録
- 経費を示す領収書・レシート
- 通帳コピー・クレジット明細
- 固定資産台帳(物療機器や備品)
- 青色申告決算書・貸借対照表(青色申告の場合)
- 医療費控除の明細(患者向けではなく、自分や家族の医療費)
これらを整理してファイルにまとめ、申告期までにチェックリストを使って漏れがないか確認します。
整骨院ならではの経費と注意点
整骨院の経営では、通常の事業以上に「何が経費になるか」を正しく把握することが重要です。
保険請求や自費施術、物療機器の扱いなど、整骨院特有の注意点も含めて具体的に説明します。
経費として認められる項目
整骨院経営では幅広い支出が経費になります。正しく計上することで利益が圧縮され節税効果が働きます。
- 家賃・敷金・共益費など
↳院の占有面積に応じた按分を要検討 - 光熱費・通信費・インターネット代
- 物療機器(減価償却資産扱い)
- 消耗品(タオル、鍼、包帯など)
- 宣伝広告費(チラシ、Web広告、SNS運用費)
- 交通費・研修費・開業支援費用など
⎯【注意】⎯
物療機器は10万円以上の場合、減価償却により数年にわたって計上する必要があります。
家賃・水道光熱費の按分計算
自宅併設型や住宅兼用店舗の場合、家事按分が必要です。業務使用率に応じて家賃・光熱費などを経費とします。
支出項目 | 合計額 | 業務使用率 | 経費計上額 |
---|---|---|---|
家賃 | ¥200,000/月 | 30% | ¥60,000 |
水道光熱費 | ¥30,000/月 | 30% | ¥9,000 |
通信費 | ¥10,000/月 | 100% | ¥10,000 |
⎯業務使用率は「施術室面積 ÷ 総面積」で算出し、客観的な根拠として記録を残しましょう。
物療機器・広告費・通信費の処理方法
整骨院ならではの必須経費について、処理上のポイントを整理します。
- 物療機器:10万円以上なら固定資産。耐用年数に応じて減価償却。10万円未満は消耗品扱い可
- 広告費:企画費や配布費を含むすべてで経費計上可。領収書は保存必須
- 通信費:予約システム導入料やクラウド会計月額費も全額経費
⎯【注意】⎯
自費メニュー専用の機器や消耗品も、業務使用割合に応じて按分が必要です。
レセプト収入の月ズレ問題
レセプト請求は提出月と入金月が異なるため、収益計上にズレが生じることがあります。
- 例:3月分の施術 → レセプト提出は4月、入金は5月 → 5月計上
- 現金主義の計上を徹底 → 支払基金からの振込日で記帳
- 開業1年目は特に月のズレが多くなりやすいため月次確認が重要
⎯対策ポイント⎯
入金予定表を作成し、未入金分は翌期の売上として繰越計上すると処理がスムーズになります。
節税対策と申告の工夫
整骨院経営者にとって、確定申告は節税のチャンスでもあります。ただし、税制の仕組みを理解し、正しく活用することが重要です。ここでは特に効果的な青色申告控除や専従者給与、小規模企業共済などの制度をわかりやすく解説します。
青色申告特別控除と活用方法
青色申告では、複式簿記で記帳し、所定の書類を期限内に提出すれば、最大65万円の控除を受けることができます。整骨院のような医療・対人事業者にとっては特にメリットが大きく、所得税・住民税の軽減に直結します。
- 令和5年以降は電子申告か電子帳簿保存が要件
↳これを満たせば控除額が最大65万円 - 65万円控除が難しい場合でも、10万円控除が適用可能
- 控除を受けた赤字は3年間繰越OK
↳開業直後の収益安定に有利
専従者給与と小規模企業共済の活用
家族をスタッフとして雇う場合、専従者給与を経費に計上できます。
また、小規模企業共済に加入すれば、掛金が全額所得控除の対象となり、退職金の積み立てにもなります。
- 専従者給与:労務実態に即した金額を支給し、経費計上可能
↳事前に税務署への届出が必要 - 小規模企業共済:月5,000円〜70,000円まで拠出可能
↳事業廃止・退職時の一時金や年金にも利用可
税務調査を避けるための記帳ポイント
正しい記帳と資料整理は、税務調査のリスクを下げるだけでなく、事業経営の「見える化」につながります。
- 領収書・請求書を日付順・カテゴリー別に整理
↳紙・PDFで保存し、デジタル化も推進 - 毎月必ず収支をチェックし、試算表を作成
↳数字のズレがないか早期に把握できる - 電子申告+帳簿保存は信頼性アップ
↳税務署からの信頼が向上し、調査選定リスクが減る
税理士・会計ソフトの活用方法
整骨院の確定申告では、税理士やクラウド会計ソフトの活用が、手間とリスクを軽減し、業務効率と正確性を高めるうえで非常に有効です。ここでは、メリットと費用目安、ソフトの選び方を具体的に解説します。
税理士に依頼するメリットと費用感
税理士に依頼することで、専門知識を活かした正確な申告と安心感が得られます。
- 経理・記帳の相談ができる
↳経費判定や節税策などの具体的なアドバイスが可能 : - 税務調査対応の安心感
↳税務署からの問い合わせや指摘にもプロが対応 - 業界特化の知見が得られる
↳業種に強い税理士ならレセプト収入など整骨院特有の処理にも精通
ケース | 年間顧問料 | サービス内容 |
---|---|---|
個人鍼灸院(低売上) | 約18万円 | 記帳+相談のみ |
接骨院(個人事業) | 約26万円 | 記帳+決算+申告代行 |
法人成り院 | 30万〜48万円 | 法人申告・社会保険・給与対応 |
税理士費用は規模によって異なりますが、整骨院では個人事業主で月1.5〜3万円程度(年18〜36万円)が目安です
おすすめクラウド会計ソフト比較
整骨院では「レセプト収入」「自費収入」「物療機器の減価償却」などをスムーズに処理できるソフトが重宝されます。
ソフト名 | 主な特徴 | 月額費用 |
---|---|---|
freee | レセプト連携可能、自動仕訳に対応 | 約2,000円+税 |
MFクラウド会計 | 銀行・カード連携がスムーズ | 約3,000円+税 |
弥生会計オンライン | 初心者向けで操作が簡単 | 約2,500円〜 |
ジョブカン会計 | サポート重視、複式簿記に対応 | 無料〜 |
freeeやMFは整骨院の運用実績が多く、レセプトなど業界特有の運用にも対応可能です

電子帳簿保存法や電子申告の対応
最近の税制改正では、電子化に対応することで青色申告控除の上乗せや調査リスクの低減が期待できます。
- 電子帳簿保存対応:帳簿や領収書のPDF等保存で控除対象に
- e‑Tax対応:電子申告で申告手続きがスムーズに
- 対応ソフト選びが重要:電子申告の要件を満たすソフトを選ぶこと
例えばfreeeやMFクラウドは電子申告・保存に対応しており、青色控除65万円+電子申告要件のクリアが可能となります
まとめ|整骨院の確定申告を正しく、無理なく乗り切るために
整骨院の確定申告は、一般的な個人事業主の申告に比べて「保険診療収入」と「自費施術収入」の管理や、物療機器などの固定資産の扱いなど、独特の要素が多く含まれます。そのため、正しい知識と準備をもって臨むことが、安心して経営を続けるためのカギとなります。
今回の記事では、青色申告と白色申告の違いから始まり、レセプト収入の計上タイミング、経費処理、節税手法、税理士やクラウド会計ソフトの活用方法まで、整骨院経営に必要な確定申告の知識を幅広く紹介しました。
特に、青色申告控除や専従者給与、小規模企業共済などの節税手段をしっかりと理解し、電子申告などにも対応できれば、税負担を減らしつつ業務効率も向上します。
実務面では、毎月の帳簿整理・試算表の作成をルーティン化することで、申告時の負担が大幅に軽減されます。
さらに、信頼できる税理士との連携や、使いやすいクラウド会計ソフトの導入は、経営の安心感にもつながります。
不安を残さないためにも、まずはできる範囲から記帳習慣を整え、必要であれば早めに専門家に相談することが、整骨院経営を健全に継続するための第一歩となります。

コメント