腹膜後器官という言葉を聞いて、どの臓器が該当するのかすぐに答えられるでしょうか?医学生や医療従事者にとっては必須の知識でありながら、腹膜の構造や臓器の位置関係が複雑で、混乱しやすいテーマでもあります。しかも、国家試験や解剖のテストでは頻出項目。正確な知識が求められる分野です。
この記事では、「腹膜後器官とは何か」という基本から、代表的な臓器の一覧、腹膜内器官との違い、さらには臨床現場での重要性までを網羅的に解説します。図解や語呂合わせも交えながら、頭にスッと入る構成でまとめているので、試験勉強中の方にも、復習として読みたい方にも役立つ内容になっています。
このページでわかること
- 腹膜後器官の正しい定義と特徴
- 腹膜後に位置する代表的な臓器の一覧
- 腹膜内器官との違いと分類のポイント
- 臨床や国家試験で問われる頻出知識の整理
腹膜後器官の基礎知識

腹膜後器官を正しく理解するためには、まず腹膜の構造や臓器の分類について知る必要があります。このパートでは、腹膜後器官の定義、どの臓器が該当するのか、そして腹膜内器官との違いについて整理していきます。複雑に感じる部分も、構造的な特徴に着目するとスッキリ理解できます。
腹膜後器官の定義とは
腹膜後器官(retroperitoneal organs)とは、腹膜の後ろ(腹壁側)に位置し、腹膜によって全面を覆われていない臓器のことを指します。腹膜は、腹腔内の臓器を包む膜構造であり、その前後で臓器の分類が異なります。
後腹膜臓器は、腹膜の後面と接しているか、あるいは腹膜の後ろに完全に位置するため、自由に動かないという特徴があります。臨床的には、手術のアプローチや疾患の進展経路にも影響するため、位置関係の理解が非常に重要です。
腹膜後器官に分類される臓器一覧
代表的な腹膜後器官は以下の通りです。覚えるべき臓器は決まっているため、リスト化して整理しておくと便利です。
| 臓器名 | 補足 |
|---|---|
| 腎臓 | 左右対で腰部に位置 |
| 副腎 | 腎臓の上に位置する内分泌器官 |
| 尿管 | 腎臓から膀胱まで尿を運ぶ管 |
| 膵臓(頭部〜体部) | 尾部は腹膜内に近く、境界に注意 |
| 十二指腸(第2〜4部) | 第1部は腹膜内に近いが、以降は後腹膜 |
| 上行結腸・下行結腸 | 固定されているため後腹膜に分類 |
| 大動脈・下大静脈 | 腹腔内の血流の主幹路 |
これらを覚える際には語呂合わせや図と組み合わせて暗記するのが効果的です。
腹膜内器官との違い
腹膜後器官を理解するうえで、腹膜内器官との違いを押さえておくことは欠かせません。以下に、両者の特徴を比較した表をまとめます。
| 分類 | 腹膜との関係 | 代表的な臓器 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 腹膜内器官 | 腹膜に完全に包まれている | 胃、小腸(空腸・回腸)、肝臓、脾臓 | 比較的可動性があり、消化管の多くが該当 |
| 腹膜後器官 | 腹膜の後ろに位置し、完全には覆われていない | 腎臓、膵臓(頭〜体部)、十二指腸(第2〜4部)など | 固定されており、臓器の動きが制限されている |
この分類を理解しておくことで、手術アプローチや画像診断時の臓器位置の判断にも役立ちます。
図で理解する腹膜後器官の位置関係
腹膜後器官は言葉だけで理解するとイメージしにくいので、シンプルな図(ASCII/テキスト図)で位置関係をつかみましょう。以下は腹膜・腹膜後・臓器の概念図です。
前
┌─────────────────────────────┐
│ 腹膜 │
│ │
│ 胃 小腸 肝臓 脾臓 │ ← 腹膜内器官(腹膜で包まれる)
│ │
腹膜表面 │─────────────────────────────│ ← 腹膜
後腹膜空間 │ │
│ 十二指腸(2〜4部) │
│ 膵臓(頭部〜体部) │
│ 腎臓 副腎 尿管 │
│ 上行結腸 下行結腸 │
│ 大動脈 下大静脈 │ ← 腹膜後器官
│ │
└─────────────────────────────┘
この図では、腹膜の前方にある臓器=腹膜内器官、そして腹膜の後ろに位置する臓器=腹膜後器官として整理しています。実際の人体では腹膜が三次元的に臓器を包み込むため複雑ですが、基本はこのように前後の関係で理解できると覚えやすくなります。
腹膜と臓器の関係を解剖図で解説
腹膜は大きく「臓側腹膜」と「壁側腹膜」に分かれ、腹膜内器官は臓側腹膜に包まれています。一方で、腹膜後器官は腹膜に背側で接し、膜に囲まれていない部分が多いのが特徴です。
以下の簡易図では、腹膜がどのように腹腔を覆っているのかを示しています。
※これは構造のイメージ図で、実際の臓器サイズ・位置とは異なります。
壁側腹膜
↑ ↑
┌────────────────┐
│ 臓側腹膜 │
│ ┌────────────┐ │
│ │ 胃 小腸等 │ │
│ │ (腹膜内) │ │
│ └────────────┘ │
│ 腹膜後空間(後腹膜)│
│ 腎・副腎・尿管等 │
└─────────────────┘
↓ ↓
臓側腹膜 壁側腹膜
この図のように、腹膜で包まれる「袋状空間」の内側にあるのが腹膜内器官、袋の背後(腹膜の後ろ)に位置するのが腹膜後器官だと考えるとわかりやすくなります。
腹膜後器官の位置関係を図で確認
腹膜後器官をまとめて「横断面で見る」イメージ図も覚えておくと、CT・MRIなどの医療画像読影時に役立ちます。下は腹部の大まかな横断面イメージです。
前側
┌──────────────────────────────┐
│ 腹膜内器官(胃・腸など) │
│ │
│ -------------------- 腹膜 -------------------- │
│ │
│ 十二指腸 膵臓(頭〜体) │ ← 腹膜後器官
│ 腎臓 副腎 │
│ 尿管 上行・下行結腸 │
│ 大動脈 下大静脈 │ ← 大血管(後腹膜)
│ │
└──────────────────────────────┘
このように、腹膜よりも背側に位置する臓器群をまとめて「腹膜後器官」と呼ぶと理解すると、解剖学・国家試験対策・臨床でも役立つ位置関係が自然と頭に入ります。
次の章では、覚え方(語呂)や臨床での意義についても整理していきましょう。
覚えやすくなる工夫
腹膜後器官は数も多く、しかも名称が似ているものも含まれるため、ただの丸暗記では定着しにくいのが実情です。そこでここでは、記憶に残りやすい語呂合わせや国家試験の出題傾向を活用し、効率よく覚えるための工夫を紹介します。暗記ストレスを減らすヒントとして活用してください。
語呂合わせで腹膜後器官を覚える
語呂合わせは、覚えにくい医学用語をリズミカルに記憶するための古典的かつ効果的な手段です。腹膜後器官の定番語呂を紹介します。
- 「こうふくなじゅうにん、すいかじんぞう」
↳後腹膜臓器(こうふく)に住む(じゅうにん)は、膵(すい)、結腸(か=下行・上行結腸)、腎臓(じんぞう)という語感で覚える。 - 「ふくろう、十二、腎、尿、スイカのうえ」
↳副腎・膵臓・十二指腸・腎臓・尿管・結腸・大動脈・下大静脈をすべて網羅する語呂。 - 「じゅうに、じんじん、すいすい、ちょうこう、だいじょうぶ」
↳言葉遊びのようなフレーズで、安心感と一緒に記憶に残りやすい。
自分の覚えやすい語感やストーリーにアレンジして作るのもおすすめです。
国家試験での頻出ポイント
腹膜後器官は、医師国家試験・看護師国家試験の両方で繰り返し出題されているテーマです。問われ方にはパターンがあるため、覚えるべきポイントを押さえておきましょう。
- 分類問題
↳「次のうち腹膜後器官でないものはどれか?」という選択肢問題が定番 - 画像問題との組み合わせ
↳CT画像やイラストを用いて、後腹膜に位置する臓器を選ばせる問題 - 疾患と関連づけて問う形式
↳膵炎・腎腫瘍・尿管結石などと併せて、臓器の位置関係を問うケースもある
過去問に触れておくことで、「試験でどう問われるか」の視点から理解を深めることができ、記憶の定着にもつながります。
腹膜後器官と臨床の関わり
腹膜後器官は、単に位置関係を理解するだけでなく、臨床に直結する知識としても非常に重要です。特に腎臓や膵臓といった器官は、疾患・手術・画像診断において日常的に扱われるため、後腹膜という位置的特徴を理解しておくことが診療の精度向上につながります。
膵臓・腎臓などに関連する疾患
腹膜後器官に分類される臓器は、以下のような疾患と密接に関わります。
- 膵炎(急性・慢性)
↳膵臓は後腹膜にあるため、炎症が腹膜に波及しにくく、腹痛が深部で鈍い場合がある - 膵臓癌
↳膵頭部は十二指腸に近接し、黄疸や胆道閉塞の原因となる。後腹膜浸潤の評価が手術適応判断に重要 - 腎腫瘍、尿路結石
↳腎臓・尿管は後腹膜にあるため、背部痛や側腹部痛として症状が出やすい - 副腎腫瘍(褐色細胞腫など)
↳副腎の位置を把握しておくことで、CTやMRIでの読影がスムーズになる
これらの臓器が後腹膜にあることは、疾患の症状の出方や、外科的アプローチにも大きく影響します。
手術や検査における腹膜後の理解の重要性
後腹膜臓器への手術では、開腹方法や術後管理において「腹膜を開かない(経後腹膜的アプローチ)」が選択されることがあります。例えば:
- 腎摘出術
↳腹膜を開けずに背側からアプローチすることで、腸管への影響を最小限にできる - 尿管鏡・経皮腎瘻造設術など
↳後腹膜の位置を前提にしたアプローチが必要
また、内視鏡検査や画像診断でも、臓器の位置が前方か後方かを意識することで、異常の見逃し防止にもつながります。
画像診断での腹膜後器官の確認
CTやMRIでは、腹膜後器官は以下のように配置されて見えます。位置関係を理解しておくことで、診断のスピードと精度が向上します。
- 腎臓・副腎
↳横断像で脊椎の左右、背側寄りに位置する - 膵臓
↳胃の後方、L1〜L2あたりに水平に走る構造として認識 - 十二指腸
↳C字型の下行部は膵頭部を囲むように配置されている - 下大静脈・大動脈
↳脊椎の真前に垂直に走る太い管状構造
特に国家試験では、「画像を見て位置を推定させる」ような問題も増えてきており、日頃から位置関係を意識して学習しておくことが対策になります。
まとめ|腹膜後器官を正確に理解して臨床や試験に活かそう
腹膜後器官は、その位置的な特性から他の臓器とは異なる分類に置かれ、国家試験・臨床の両方で頻出となる重要テーマです。この記事では、腹膜後器官の定義から代表的な臓器、腹膜内器官との違い、図による位置関係の解説、さらには語呂合わせや臨床との関連までを幅広く紹介しました。
覚えるべきポイントは、以下のようにシンプルにまとめられます。
・腹膜後器官とは、腹膜の後方に位置し、完全に腹膜に包まれていない臓器
・代表的な臓器には、腎臓・副腎・尿管・膵臓(頭部〜体部)・十二指腸(2〜4部)・上行/下行結腸・大動脈・下大静脈などがある
・語呂合わせや図解で構造を理解すると記憶が定着しやすくなる
・画像診断や手術の場面でも、腹膜後の位置関係が判断の基準になる
ただの暗記に頼るのではなく、「なぜこの臓器は後腹膜にあるのか」「それがどう影響するのか」を考えることで、より深い理解につながります。試験対策としてはもちろん、将来的に臨床での判断力にもつながる重要な知識です。今のうちにしっかりと身につけておきましょう。





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