内頸動脈は、脳や眼、顔面へ重要な血流を供給する主要な血管の一つであり、その分岐や支配領域の知識は国家試験対策や臨床現場での判断に欠かせません。しかし、名称が似ていたり分岐順が複雑で、覚えるのに苦労する部分でもあります。
この記事では、内頸動脈の分岐とそれぞれの動脈がどのような機能を持ち、どの部位に分布するのかを図や語呂合わせを使って整理します。頭蓋内外の構造を理解し、脳血管障害との関連も視野に入れることで、解剖学的な理解を実践に活かせるようサポートします。
このページでわかること
- 内頸動脈の経路と頭蓋内での分岐部位
- 眼動脈・前大脳動脈・中大脳動脈などの支配領域
- 分岐順を覚える語呂合わせの活用法
- 脳梗塞と血管支配領域との関連性
内頸動脈の解剖と基本経路

内頸動脈は、総頸動脈から分岐し、頭蓋内へ向かう動脈のひとつです。脳の大部分、特に前方・外側の領域を支配しており、脳卒中などの病態と密接に関連します。そのため、内頸動脈の走行や経路、頭蓋内での分岐部位は、試験でも臨床でも重要な理解ポイントです。
頚部から頭蓋内への経路を把握しよう
内頸動脈は、頸動脈洞のすぐ上で総頸動脈から分かれ、外頸動脈とは異なる経路を取ります。まずはその走行を正しく理解することが重要です。
- 頚部
↳内頸動脈は、頸動脈鞘内を上行し、分枝を出さずに直接頭蓋内へ向かう - 頭蓋底部
↳側頭骨の錐体部にある頸動脈管(carotid canal)を通過 - 頭蓋内(海綿静脈洞)
↳ここで最初の分岐(眼動脈など)を出す
内頸動脈が外頸動脈と異なるのは、「頚部で分枝を出さない」という点です。これが試験でも問われやすいポイントの一つです。
海綿静脈洞を通る動脈の注意点
頭蓋内に入った内頸動脈は、海綿静脈洞(cavernous sinus)を通過するという特殊な経路を持ちます。ここには複数の重要な神経が並走しているため、病変による影響を受けやすい部位でもあります。
- 通過構造物
↳内頸動脈のほか、第III(動眼)・第IV(滑車)・第V1(眼神経)・第VI(外転)神経が走行 - 眼動脈の分岐
↳海綿静脈洞を抜けた直後、視神経の近くで眼動脈を分岐
海綿静脈洞部は、動脈瘤や血栓が起こると複数の神経麻痺を引き起こすため、臨床的にも重要な部位です。解剖学的にこの構造を理解しておくことで、症状の背景を的確に判断できるようになります。
内頸動脈の主要分岐と支配領域
内頸動脈は頭蓋内で複数の分岐を出し、脳の広範囲に血流を供給します。とくに眼球や前頭葉、側頭葉、内包、視床など、重要な神経構造を支配しているため、それぞれの分岐と支配領域を明確に覚えておく必要があります。分岐の順序・部位・支配範囲をまとめることで、記憶しやすくなります。
| 分岐動脈 | 分岐部位 | 主な支配領域 |
|---|---|---|
| 眼動脈 | 海綿静脈洞通過直後 | 眼球・眼瞼・視神経・鼻粘膜 |
| 前大脳動脈(ACA) | 脳底部、視交叉近傍 | 内側前頭葉・頭頂葉(下肢の運動感覚領域) |
| 中大脳動脈(MCA) | 内頸動脈終末部 | 大脳半球外側面(顔・上肢・言語中枢) |
| 後交通動脈 | 前大脳・中大脳動脈の分岐直前 | 後大脳動脈と連絡、ウィリス動脈輪を形成 |
| 前脈絡叢動脈 | 後交通動脈の直後 | 内包後脚・視床・側脳室の一部・脈絡叢 |
眼動脈:視覚器官を支配
眼動脈は、内頸動脈の最初の分枝であり、視覚に関わる構造への主要な血流を担います。特に、視神経や網膜を栄養する中心動脈は、失明と直結するため非常に重要です。
- 主な枝:中心動脈、涙腺動脈、睫毛動脈など
- 支配領域:眼球・視神経・涙腺・前頭部の皮膚
視力障害や眼球運動の異常が出た場合、この血管の障害が関与することがあるため、解剖と機能の関連を意識して覚えましょう。
前大脳動脈:内側前頭葉・下肢領域
前大脳動脈(ACA)は、脳の内側面を主に支配します。特に運動・感覚野のうち、下肢領域に関与することで知られています。
- 支配範囲:内側前頭葉・帯状回・補足運動野・頭頂葉
- 障害時の症状:対側下肢の運動麻痺や感覚障害
MRI読影や脳梗塞の症例で「下肢だけが麻痺している」といったケースでは、ACA領域の虚血が強く疑われます。
中大脳動脈:外側大脳・言語領野
中大脳動脈(MCA)は、内頸動脈の最終枝として、脳の外側面の広範囲を支配します。とくに言語や顔面・上肢の運動感覚を司る重要な領域です。
- 支配範囲:前頭葉外側、側頭葉上部、頭頂葉外側
- 障害時の症状:失語(ブローカ・ウェルニッケ)・顔面や上肢の片麻痺
MCA領域の梗塞は頻度も高く、重篤な症状を呈するため、支配領域と臨床像をリンクさせて覚えるのが重要です。
後交通・前脈絡動脈:連絡と深部支配
後交通動脈は、前後の脳循環をつなぐ橋渡し的な役割を持ちます。一方、前脈絡叢動脈は深部構造に血流を供給し、小さな動脈ながら臨床的な影響は大きいです。
- 後交通動脈:ウィリス動脈輪の構成要素。後大脳動脈と連絡
- 前脈絡叢動脈:内包・視床・側脳室脈絡叢を支配。出血・梗塞で運動障害が出やすい
これらの動脈はサイズこそ小さいものの、深部構造への影響が大きく、症状の出現は急激かつ重篤になる場合があります。
覚えにくい分岐を語呂で覚える
内頸動脈からの分岐は名称が長く、順序も混同しやすいため、語呂合わせを使った暗記が非常に有効です。また、症状との関連づけで覚える方法も記憶に定着しやすくなります。このパートでは、暗記に役立つ語呂と、それをどう活用すべきかを紹介します。
語呂「眼前中交絡」で一括暗記
分岐順をまとめた語呂のひとつが「眼前中交絡」です。内頸動脈から出る主要な枝を順番に並べたもので、視覚的にも聴覚的にも覚えやすいリズムが特徴です。
- 眼:眼動脈
↳視覚器・眼窩周囲への血流を供給 - 前:前大脳動脈(ACA)
↳内側前頭葉・下肢運動領野 - 中:中大脳動脈(MCA)
↳大脳外側、言語・顔・上肢領域 - 交:後交通動脈
↳前後の循環を連絡(ウィリス動脈輪) - 絡:前脈絡叢動脈
↳内包後脚・視床・側脳室脈絡叢など
この語呂は、臨床的に重要な順序を反映しており、試験対策にも直結します。繰り返し口に出して覚えることで、定着率が上がります。
症状と支配領域の関連で記憶定着
分岐順だけでなく、それぞれの動脈が損傷された場合にどんな症状が出るのかを併せて覚えると、知識が実践につながりやすくなります。以下に代表的な血管と関連症状をまとめました。
| 血管 | 障害時の主な症状 |
|---|---|
| 眼動脈 | 一過性黒内障、網膜動脈閉塞 |
| 前大脳動脈(ACA) | 対側下肢の麻痺・感覚障害 |
| 中大脳動脈(MCA) | 対側顔面・上肢の麻痺、失語症(優位半球) |
| 前脈絡叢動脈 | 運動麻痺、視野欠損、認知障害 |
このように、「血管→支配部位→症状」という流れを理解することで、単なる語呂暗記にとどまらず、臨床現場での判断材料としても役立つ知識に変わります。
臨床応用:脳血管障害との対応
内頸動脈は脳血流の大部分を担っており、その分岐に応じた障害は臨床症状に直結します。どの動脈が障害されたかによって現れる神経症状を理解することで、病変部位の推定や早期の対応が可能になります。この章では、よくある脳血管障害との対応関係を症状別に解説します。
MCA・ACA梗塞の症状と神経領域
中大脳動脈(MCA)と前大脳動脈(ACA)の梗塞は、発症頻度も高く、それぞれ明確な臨床症状を呈します。以下に支配領域と主な症状を整理します。
| 動脈 | 主な支配領域 | 障害時の症状 |
|---|---|---|
| 中大脳動脈(MCA) | 大脳半球外側(前頭葉・頭頂葉・側頭葉) | 対側の顔面・上肢の麻痺、失語症(優位半球) |
| 前大脳動脈(ACA) | 内側前頭葉・頭頂葉(補足運動野・帯状回) | 対側の下肢麻痺、感覚障害、尿失禁 |
症状が「顔や腕だけ」「下肢だけ」に偏る場合は、それぞれMCAやACA領域の病変を疑うのが基本です。
前脈絡叢動脈や後交通動脈:深部構造との関わり
前脈絡叢動脈や後交通動脈は小さな血管ながら、内包や視床などの深部構造に血流を送る重要な動脈です。障害されると運動・感覚障害だけでなく、高次脳機能障害も引き起こします。
- 前脈絡叢動脈の障害
↳ 内包後脚への虚血により、重度の片麻痺・視野欠損が出現 - 後交通動脈の障害
↳ ウィリス動脈輪の連絡不全により、視覚障害や意識変容を引き起こすことがある
これらの動脈が関与する脳出血や梗塞は、画像所見でも把握が難しい場合があるため、症状とのリンクが診断の手がかりになります。
CT・MRIで見る内頸動脈の走行
画像診断では、内頸動脈の走行とその分岐を把握することが、診断精度を高める鍵になります。特にCTやMRIアンギオでは、以下の所見が重要です。
- ICA起始部の狭窄やプラーク
↳ 超音波やMRAで早期発見が可能。脳梗塞のリスク評価に必須 - hyperdense MCA sign(高吸収MCAサイン)
↳ 急性期CTで中大脳動脈に血栓があると認められる重要所見 - 分水嶺梗塞(ACA-MCA間、MCA-PCA間)
↳ 低灌流による虚血。血流低下や全身状態の悪化で出現しやすい
画像所見と血管走行・分布領域の知識を組み合わせることで、より確実な読影と臨床判断が可能になります。
まとめ|内頸動脈の分岐を正確に把握して得点源に
内頸動脈は、脳と視覚系への血流を支配する極めて重要な動脈であり、その分岐と支配領域を正しく理解することは、国家試験の得点源になるだけでなく、臨床判断にも直結します。この記事では、内頸動脈の解剖学的な経路から主要分岐、各動脈の支配領域、臨床症状との関連までを整理しました。
覚えにくい分岐順は語呂合わせ「眼前中交絡」で効率よく暗記し、さらにCT・MRI画像や神経症状と関連づけることで、知識の応用力が高まります。MCA・ACAの梗塞症状を典型例として押さえておけば、問題の選択肢に迷うことも少なくなるでしょう。
内頸動脈の理解は単なる暗記ではなく、「どの領域に血流を送っているか?」という視点を持つことで、構造と機能をセットで覚えられます。国家試験対策にも、日々の実習や画像読影の場面にも活きる知識なので、ぜひ自信をもって取り組んでください。




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