近年、整骨院の数は急激に増え、かつての「地域に一院」から「通りに何軒もある」時代へと突入しました。一方で、保険制度の見直しや自費施術の台頭など、経営環境は大きく変化しています。
これから整骨院を開業したい人も、今後の進路に迷う柔道整復師も、「この業界は今後どうなるのか?」という疑問を抱えていることでしょう。
本記事では、整骨院業界の現状から将来の展望、そして経営・就職・転職の選択肢までを網羅的に解説します。高齢化やデジタル化、他業種との競合といった外的要因に加え、業界内の成功事例や実際の対策まで取り上げ、将来への不安を行動へと変えるヒントを提供します。
このページでわかること
- 整骨院業界の現状と課題、最新の動向
- 保険制度やデジタル化が与える影響
- 整体・リラクゼーションとの競合と差別化戦略
- 将来有望なサービスモデルと成功事例
- 経営者・就職希望者・転職希望者それぞれの選択肢
整骨院業界の現状と課題

整骨院業界は現在、大きな転換点を迎えています。かつて安定していた保険診療を中心とした経営モデルが揺らぎ、競合の増加により差別化が困難になりつつあります。業界の実情を数字と比較表で見ていくことで、その構造的な課題が明確になります。
整骨院の数が多すぎる?過剰供給と競争激化
整骨院の数は年々増加しており、すでに飽和状態にある地域も珍しくありません。
年 | 全国の整骨院数 | 1万人あたりの整骨院数 |
---|---|---|
2010年 | 約35,000件 | 2.8件 |
2015年 | 約45,000件 | 3.6件 |
2020年 | 約52,000件 | 4.1件 |
2023年 | 約55,000件超 | 4.4件 |
このような状況では、技術力だけでは他院と差別化しきれず、「選ばれる整骨院」になるための戦略が欠かせません。
保険制度の厳正化と収益モデル
整骨院の経営を支えてきた保険診療ですが、制度の厳格化により「頼りすぎるリスク」が大きくなっています。
項目 | 変化内容 | 影響 |
---|---|---|
保険対象の厳格化 | 慢性疾患は対象外に | 収入の不安定化、返戻増 |
審査の強化 | 詳細な施術記録・頻度が審査対象 | 事務作業の負担増加 |
療養費請求の遅延 | 支払いまで1〜2ヶ月かかる | 資金繰りの悪化要因に |
この変化に対応するには、自費施術や物販サービスとのハイブリッド経営が求められています。
整体・リラクゼーション・整形外科との差別化
整骨院は今や「柔道整復師同士の競争」だけではありません。他業種との境界が曖昧になり、顧客の流出先が増えています。
業態 | 競合の理由 | 整骨院との差別化ポイント |
---|---|---|
整体院 | 無資格でも開業でき、価格も自由 | 国家資格による信頼性 |
リラクゼーションサロン | 価格が安く、気軽に利用できる | 「治療目的」での訴求と結果重視 |
整形外科 | 医師による診断・保険対応の安心感 | 施術時間の長さ・丁寧なカウンセリング |
競争が激化する中、専門性やサービス品質をどう打ち出すかが生き残りのカギとなります。
整骨院業界の未来を左右する外的要因
整骨院業界は、社会構造やテクノロジーの変化に大きく影響を受けています。ここでは、今後の業界動向を左右する3つの主要な外的要因を解説します。
高齢化社会と予防医療
日本は世界でも類を見ないスピードで高齢化が進行しており、75歳以上の後期高齢者は2021年の約1,900万人から2050年には約2,400万人に増加すると予測されています(出典:経済産業省)。
このような状況下で、予防医療の重要性が高まっています。
項目 | 内容 |
---|---|
予防医療の市場規模 | 2020年時点で約5,500億円と試算されており、今後も拡大が見込まれる(出典:日本政策投資銀行) :contentReference[oaicite:1]{index=1} |
予防医療の効果 | 2050年には要介護者が66万人減少し、医療・介護費が6.1兆円抑制される可能性がある(出典:三菱総合研究所) :contentReference[oaicite:2]{index=2} |
整骨院が予防医療に注力することで、高齢者の健康寿命延伸に貢献し、地域社会での役割を強化できます。
デジタル化の波にどう対応するか
医療分野では、デジタルトランスフォーメーション(DX)が進行中です。政府は「医療DX令和ビジョン2030」を掲げ、医療情報のデジタル化を推進しています :contentReference[oaicite:3]{index=3}。
取り組み | 概要 |
---|---|
電子カルテの導入 | 医療機関間での情報共有を促進し、診療の質と効率を向上 |
オンライン診療の拡充 | 遠隔地の患者にも対応可能な診療体制の構築 |
AI技術の活用 | 診断支援や業務効率化を実現 |
整骨院もこれらの動向を踏まえ、予約システムの導入やSNSを活用した情報発信など、デジタル化への対応が求められます。
訪日外国人・観光施術市場の可能性
訪日外国人の増加に伴い、医療ツーリズム市場が拡大しています。2023年には医療滞在ビザの発給数が2,295件に達し、観光ビザを利用した医療渡航者を含めると年間で2〜3万人に上るとされています :contentReference[oaicite:4]{index=4}。
国籍 | 特徴 |
---|---|
中国 | 高度な医療技術への信頼と近接性から訪日医療需要が高い |
アメリカ | 高品質な医療サービスを求める層が存在 |
タイ | 医療と観光を組み合わせた需要が見込まれる |
整骨院が外国人患者への対応を強化することで、新たな市場を開拓し、収益の多様化を図ることが可能です。
成功する整骨院の特徴と成功戦略
整骨院業界は変革期を迎えており、従来の保険診療だけでは経営が難しくなっています。ここでは、今後も成長し続けるための5つの戦略を解説します。
自費施術の導入と価格戦略
保険診療の収益が減少する中、自費施術の導入は経営の安定化に不可欠です。以下は自費施術の導入事例です。
施術内容 | 価格帯 | 特徴 |
---|---|---|
美容整体(小顔・美脚矯正) | 1回8,000円 | 高価格帯で高品質を訴求。5回セットで35,000円のパッケージプランを提供し、リピート率を向上 |
星状神経節レーザー照射 | 1回500円〜1,500円 | 自律神経の不調や耳鳴り、めまいなどに対応。低価格で導入しやすい |
整体マッサージ | 10分1,300円〜60分7,100円 | 時間単位で価格設定し、患者のニーズに応じた施術を提供 |
価格設定は地域の相場やターゲット層を考慮し、適切な戦略を立てることが重要です。
地域密着型サービスの展開
地域住民との信頼関係を築くことは、整骨院の経営において重要です。以下のような取り組みが効果的です。
- 地域イベントへの参加
↳地元の祭りやスポーツイベントに出展し、無料相談や体験施術を提供することで認知度を向上 - 健康セミナーの開催
↳地域住民を対象にした健康セミナーを開催し、予防医療の重要性を啓発 - 地域包括ケアシステムへの参画
↳介護予防や在宅医療の一環として、地域包括ケアシステムに積極的に関与
これらの活動を通じて、地域に根ざした整骨院としての地位を確立できます。
SNS・口コミサイトの戦略的活用
デジタル時代において、SNSや口コミサイトの活用は集客において欠かせません。以下は各SNSの特徴です。
SNS | 特徴 | 活用方法 |
---|---|---|
ビジュアル重視で若年層に人気 | 施術のビフォーアフターや院内の雰囲気を写真で紹介 | |
中高年層にリーチしやすい | 健康情報やイベント告知を投稿 | |
LINE | 直接的なコミュニケーションが可能 | 予約受付やキャンペーン情報の配信 |
Googleビジネスプロフィール | 検索結果に表示されやすい | 営業時間や口コミの管理 |

また、口コミサイトへの登録や患者の声の収集・掲載も信頼性の向上につながります。
複合型サービス(ジム・ヨガ・整体)の導入
整骨院と他のサービスを組み合わせた複合型施設は、顧客の多様なニーズに応えることができます。以下は導入事例です。
- フィットネスジム併設
↳トレーニングと施術を一体化し、健康維持をサポート - ヨガスタジオとの連携
↳柔軟性向上やストレス解消を目的としたプログラムを提供 - 美容サロンとのコラボレーション
↳美容整体やエステを組み合わせたサービスを展開
これらの取り組みにより、顧客満足度の向上と新たな収益源の確保が期待できます。
行政・地域包括ケアとの連携事例
行政や地域包括ケアシステムとの連携は、整骨院の社会的役割を高めるとともに、安定した経営基盤の構築につながります。具体的な取り組みとしては以下のようなものがあります。
- 介護予防事業への参画
↳高齢者向けの運動指導や健康相談を実施 - 在宅医療との連携
↳訪問施術やリハビリテーションの提供 - 地域支援事業への参加
↳地域住民の健康維持を目的としたイベントやセミナーの開催
これらの活動を通じて、地域社会に貢献しながら整骨院の存在価値を高めることができます。
整骨院業界の未来を見据えた進路選択
整骨院業界は変革期を迎えており、就職・転職・経営の各段階で柔軟な対応が求められます。
ここでは、整骨院業界に関わる人々が今後のキャリアをどのように選択すべきかを解説します。
整骨院の就職・転職を考える人へ
整骨院業界では、柔道整復師や鍼灸師の需要が高まっています。特に、地域密着型の整骨院や自費診療を導入している院では、専門性の高い人材が求められています。
- 地域密着型整骨院
↳地域住民との信頼関係を重視し、長期的な患者フォローが可能 - 自費診療導入院
↳保険診療に依存せず、独自の施術メニューを展開 - 多店舗展開グループ院
↳研修制度やキャリアパスが整備されており、スキルアップが期待できる
就職・転職を検討する際は、自身のキャリアプランや働き方の希望に合った院を選ぶことが重要です。


経営者が今から準備すべき対応策
整骨院の経営者は、業界の変化に対応するための戦略を立てる必要があります。以下の点を検討しましょう。
- 自費診療の導入
↳保険診療に依存しない収益モデルの構築 - デジタル化の推進
↳予約管理や顧客管理のシステム導入による業務効率化 - 人材育成と働きやすい職場環境の整備
↳スタッフの定着率向上とサービス品質の維持
これらの取り組みにより、安定した経営基盤を築くことが可能です。
他業種・複業・転職の選択肢も視野に
整骨院業界での経験を活かし、他業種への転職や複業を検討することも一つの選択肢です。以下のような道があります。
- フィットネス業界への転職
↳運動指導やトレーニングプログラムの提供 - 介護業界への転職
↳高齢者のリハビリや機能訓練のサポート - 健康関連商品の販売
↳サプリメントや健康器具の販売を通じた収益確保
自身のスキルや興味に応じて、柔軟なキャリアパスを描くことが重要です。ですがこれらの業種にも専門範囲があります。そのため勉強が必要になるためよく考えて選択することを重要視しましょう。
まとめ|整骨院業界の今後
整骨院業界は、保険制度の見直し、過剰供給、デジタル化、高齢化社会といったさまざまな外的要因によって、大きな変革の真っ只中にあります。これまで通りのやり方では通用しない時代に突入した今、業界に関わるすべての人が「次の一手」を見つけることが求められています。
今回の記事では、整骨院の現状と今後の課題を整理し、デジタル化・自費施術・地域連携といった成功のための戦略を紹介しました。
また、経営者・就職希望者・転職希望者といった立場別に取るべき具体的なアクションも提示しています。
今すぐすべてを変える必要はありません。ただし、変わらないことが最大のリスクとなる時代において、学び、備え、少しずつでも行動することが未来への確かな一歩になります。
整骨院業界には、まだ多くの可能性とニーズが眠っています。この記事が、自分の道を見出し、前向きに進むためのヒントとなれば幸いです。
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